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知美は一瞬にして肉の塊にされるのだろうと思いながら固く目をつぶり、
頭上でチャリとなる鉄の音を耳にしながら歯を強く食いしばる。
数秒後鈍い音はしたもののその、鉄の塊は自分に振り下ろされることはなかった。
「あ、ぁあ」
声は出なかった。叫びたいのに声は出ずただ、その人物の見つめた。
そして前の人物は知美をじっと見つめ、口をパクパクと動かした。
知美はガクガクと子鹿のように足を震わせて一歩後ずさりする。
「ど、どう、、して」
やっと出せた声は震えていた。目の前の太一は真っ赤に染まった唇をパクパクと動かし必死に何かを訴えている。
そんなウチにも刀のようなものを持った黒服の男は素早く太一の心臓をなんのためらいもなく一突きした。
動かなくなった太一はいまだに知美のことを見つめていた。知美はその現場に足が崩れ立てなくなった。
(あぁ、私も死んじゃう、あんなふうに死んじゃう、どうして私なんか庇ったの?)
私は視線を落とし肩をだらっと下げた。視線の先には血だまりと黒い靴が見える。
どう見ても黒服の男の靴だった。
次は私だ!そう強く思いギュッと目をつぶった。
「ぁぅ、ぇ、、?」
衝撃はいまだ来なかった目を開けると前にあった靴はなく知美は恐る恐る見上げるた。
目の前に立っていたはずの黒服の男は“何か”に投げ飛ばされたかのように横の地に血を流し横たわっていた。腕のいたるところがあらぬ方向に曲がっている。
その状況に思わず視線をそらしたその先に先程の大きな狼がいた。
(こいつがやったのか?)
狼はのそのそと歩いて行くと太一の死体の元の前に来て、舌を伸ばしその身を絡め取ると腕一つを残し一口で平らげた。
「けぷ、ゔぇっ 」
ボリバリと言った生々しい音に知美は胃の中の物を地面にぶちまけた。
そんな中黒い集団が声を張り上げ仲間達に伝える。
「魔獣はここだ!今死体が消えた!魔獣はココにいるぞ!!」
「魔獣?」知美は聞きなれないその聞き慣れない言葉に疑問を持った。
なぜ、そんな遠回しの話し方をするのか、彼らはまるでアレが見えていないように言っていた。
(、、、そんな事はどうでもいいこの場から早く逃げないと)
少し落ち着き思考が戻った知美は立ち上がりフラフラとしながらも走った。
まだ死ぬわけにはいかなかった、大切な母を残し、先に逝くなって考えたくもない。
知美はただ母の事だけを想いあのボロいけど暖かなアパートへとその道を引き返し走って行った。
黒い壁が目の前に立ち一瞬で周りが薄暗い理由が理解できた。
恐る恐るそっと手を伸ばせば手はその壁を突っ切りその先に進めた。知美は黒い壁を突っ切って走って行く。
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