プリントをなくした

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題名からお察しだろう。 なかった。 ロッカーや落し物ボックス、職員室、あらゆる移動教室。 散々探し回ったがわたしのプリントは見つからない。 困った。あれは提出しなくてはならないものなのだ。 数学の先生は怖い。 無くしたなんて言ったら何を言われるか分からない。 途方に暮れていると、同級生の女子に話しかけられた。 「どうしたの?探し物?」 「うん。数学のプリントがなくて……」 「私まだ書き込んでないからコピーしようか?」 「いいの?!」 それは助かる。 先生に怒鳴られる未来しか見えなかった私には彼女が天使に見えた。 助かった、これで怒られずに済む。 私はコピーしたプリント課題に取り組み、何食わぬ顔で提出した。 2日後、何事もなく返却された。 彼女がいて本当に良かった。 プリントが返された日の放課後のこと。 今日日直の彼女は教室で日誌を書いていた。 お礼にジュースでも渡そう。 校内の自動販売機で缶ジュースを一本買い、教室に戻った。 そして扉を開ける前、座り込んでいる彼女が目に入って思わず手を止めた。 目を凝らすと、手には私が無くしたプリントと同じものがあった。 彼女の手がカタカタと震えている。 何かを察した私は10分ほど図書室で暇を潰してふたたび教室に戻った。 彼女は日誌を書き終わったのか帰り支度をしている。 「おつかれー」 心なしか彼女の肩がピクリと動いたが、気づかないふりをする。 「プリントの件、本当にありがとう。これお礼ね」 「えー?いいのに!」 ジュースを差し出すと彼女は照れたように笑った。 彼女はカバンに教科書やノートを詰め込むとカタリと椅子を引いた。 「私寄るところあるから先に帰るね!じゃあね!!」 「うん。バイバイ」 そそくさと帰って行った。 私は安堵した。 彼女はみんな嫌がって押し付け合いになる委員会や係を率先してやる人だ。 性格や愛想も良くて人気がある。 そんな彼女がどうして私といつも一緒にいるのか。 グループ決めや、ペア作りの時に私を選んでくれるのか疑問だったのだ。 今回私はあえて彼女のファイルに自分のプリントを挟み込んでおいたのだ。 もちろん勤勉な彼女はすぐに気づいたに違いない。 だが知らないふりをした。 今まで私なんかの友達に……と思っていたが、彼女ならば私の友人として合格だ。 これからもよろしくね。
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