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「母さんには内緒な」お菓子売り場でこっそりと。
「ほら泣くな」優しく頭を撫でる。
「美味いだろ?父さんはオムレツだけは上手いんだ」エプロン姿で得意げに笑う。
「あー、酔った。完全にきた」車で山道を行った。
「行け行け行け......やったー!ユウキ!入ったぞ!!」夜中まで起きてサッカーを見た。
「ゴホッ、いや、美味いよ桜さん美味い」黒炭ケーキを頬張って言う。
「ハッピーバースデイ、ユウキ!」鼻眼鏡をつけてクラッカーを鳴らす。
「っかしいな......」自室に篭って書類と格闘する。
「寒い動けない動きたくない」ストーブ前を占領。
「アイス食って帰るか」高い太陽の下、汗を拭う。
「いいか、ユウキ」
父さんはオレの頭に手を置いて、腰を屈めた。
「この先お前は、たくさんの嫌な事、苦しい事を経験するだろう」
「この先お前に、冷たい悪意、理不尽な敵意が襲いかかるだろう」
「この先お前を、辛い現実、遠すぎる理想が蝕むだろう」
「だが、忘れるなユウキ。決して忘れるな」
父さんは、強く、強く言う。
「───────────────」
ユウキの胸に、小さく赤い、火が灯る。
▽
パシンと、ユウキは伊吹の手を払った。
「......い出した」
硬直した伊吹に、ユウキは叩きつけるように叫ぶ。
「思い出したぞッ!!」
あの日、大学で起きた火災。思わず燃え盛る建物の中に飛び込んだオレと、それを追った母さん。
諏訪さんは二人を助けるために火災現場に入っていったんじゃない。
あの時、行く手を阻んでいた炎の壁を散らし、火災現場の中からゆっくりと歩み出てきたのは。
そして、オレと母さんの胸に手を刺し、父さんに関する記憶を奪ったのは。
「伊吹さん......!あんたの仕業か、全部ッ!!」
吠えた。
「思い出したよ、全部!父さんの事、みんなの事、あなたが企てた事!嫌な気分だ。忘れるって、こんなに怖い事だなんて!」
「ユウキ......」
ギュッと拳を握ったユウキは、心をぶつける。
「伊吹さん。『戦争を無くす』為には、犠牲というものは必要なのかもしれない。貴方が選んだこの道は、もしかしたら、最も犠牲の少ない道なのかもしれない!それでも、それでもさ!」
「『人と人とを繋ぐ言葉』を『人が人を殺す為の兵器』にしようというのなら、それは正しくないよ、絶対!」
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