紅い白薔薇

2/17
前へ
/17ページ
次へ
 部屋の窓から庭を見下ろすと、薔薇が白い花を付けているのが目に入った。   昔まだ少しだけ家族の仲がよかったころ、父に薔薇を一輪摘んでもらったことを藤川誠は思い出す。白い花弁が幾重にも折り重なった薔薇は、長い時間眺めていても飽きないほど美しかった。  誠は薔薇を近くから見たいと思い庭に出る。薔薇の木は思っていたよりも高く、日の光を背にしているせいで花の輪郭しか分からなかった。  花を引き寄せようとするが、今年十歳になる誠では手が届かなかった。  誠は軽く腰を屈め、勢いを付けて跳ね上がる。柔らかい花弁が指先に触れた。自分でも花を摘める。そう思った誠は何度も飛び跳ねる。ようやく花を掴むことに成功した誠だったが―― 「痛っ……!」  手のひらに走った鋭い痛みに驚き、誠は手に掴んだ花を放した。握りつぶされた薔薇が宙を舞う。引き千切った衝撃で木全体が揺れ、雪のように花弁を散らす。  誠は痛みに顔を歪めながら手のひらに視線を落とす。手のひらの上で血がいくつもの小さな玉を作っていた。血でできた玉は次第に大きくなり、手のひらから流れ落ちると、地面に散った白い花弁を赤く汚した。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加