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☆ ☆
「落ち着いたか?」
「……うん、ありがとう」
ホットココアの缶を両手で握りしめながら、少女は俯く。元々落ち着いている様子ではあったが、少し混乱していたようで、俺はひとまず校内のベンチで彼女と話すことにした。昼休みの時間はまだ残っているし、ゆっくり話す余裕はある。
「その……名前は?」
「……空音」
「空音か。俺は海都。海の都って書いて海都だ」
「読めない」
「ははっ、よく言われるよ」
空音のか細い声に、俺は苦笑した。名前を間違われることが多いが、俺は結構この名前を気に入っている。綺麗な名前だと、言ってくれる人が少なからずいるからだ。
「なぁ空音。お前は何で降ってきたんだ?」
自己紹介を終えた所で、早速本題に入る。彼女が降ってきたのは、おそらく屋上からだ。普通に考えて飛び降りようとしたのだろうが、運悪く足を滑らせただけなのかもしれない。その辺りを、はっきりしておきたかった。
「……疲れたから」
「ってことは、やっぱり自殺しようと……?」
「そうだよ」
あっさりとした答えに、俺は困り果てた。もっと隠してくるかと思いきや、空音は微塵も否定しなかった。つまり俺は、彼女の自殺を阻止したことになるのか。
「何か嫌なことでもあったのか?」
「……」
「俺で良ければ話くらいなら聞くけど」
「どうして海都くんは、私のことをそんなに気に掛けるの?」
空音はココアの缶を強く握りしめて、俺を見つめた。澄んだ空色が、不思議そうに揺れる。
「なんつーか……放っておけないんだよ」
「出会ったばかりなのに?」
「あぁ。俺ってそういう性格なんだよ。悩みがある人とか困ってる人とか放っておけない性分なんだ」
「……世話焼き?」
「そんなところ」
「変わってるね」
「よく言われる」
笑いながらそう返せば、空音も小さく微笑んだ。
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