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――人が降ってきた。
何気なく空を見上げた時だった。それはもう、漫画かアニメみたいな感じで。
ふわりと揺れるチェック柄のプリーツスカートに、風にはためく黒色のブレザー。長い茶色の髪がうねり、宙を揺蕩っている。
急速に落ちてくるそれを見て、俺は何も考えずに駆けだした。飲んでいた紙パックのカフェオレを投げ捨て、俺は両腕をその少女目がけて差し出す。
だが、人ひとりを支えられるほど俺の腕は頑丈じゃない。降ってきた少女を受け止めきれず、俺は少女と共に地面に勢いよく倒れこんだ。
幸い、そこはふかふかの草むらで大きな怪我をすることはなかった。
「おい、大丈夫か!?」
俺の上に覆いかぶさるように倒れている少女に声をかける。
「……どう、して」
そう呟きながら、少女はゆるりと起き上がった。伏せられていた瞼が、ゆっくりと開かれた。
青空をそのまま溶かしこんだような綺麗な空色の瞳が、俺を映し出した。流水のように流れる茶色の細い髪が、彼女の儚さを演出している。真白な肌に、艶やかな唇。目の前の少女はまるで、精巧な人形のようだった。
「こんなこと、今までなかったのに……」
俺を見つめながら少女はそう零す。
「怪我とかないか?」
「……うん」
起き上がりながら尋ねれば、小さな声で彼女は頷いた。勢いよく地面に打ち付けたせいで体中が痛むが、ともかく少女が無事なようで良かった。
「ごめんね、ありがとう」
少女は、不器用な微笑を湛えながら俺を見つめた。空色の瞳がやんわりと細められ、人形のような表情が少しだけ和らぐ。
それに思わず胸が高鳴った。彼女の見た目も、纏う雰囲気も、声も、全てが俺を惑わすような気がする。素直に、彼女が綺麗だと思った。
……あぁ、これが俗にいう一目惚れってやつなんだろう。自分でも呆れるほど馬鹿馬鹿しい。
俺は、出会って間もない少女に恋をしてしまった。
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