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独立という名の反逆
わたしの肉体の救世主は、身近にいた。
「彩奈に聞いたけど、アパートを探してるんだって?」
休日の朝、朝食をサービスしたわたしに、大輔が何げなく言った言葉からだった。
「そうね。もう家を出ないと」
「彼氏ができた、とか?」
「さぁ。どうかしら」
その日は両親が旅行にでかけ、妹も早くから出かけていた。
「そうだ。きょうアパートを探しに行くんだけど、つき合ってくれない」
「いいけど、夫婦と間違えられるぞ」
「それもいいじゃない」
その日、わたしは初めて大輔のクルマの助手席にすわった。何度か送り迎えを頼んだことはあったが、いつも妹が占めていた席だ。
「おれたちも新居を探したんだけどね、お父さんが熱心に同居を勧めるから。まぁ、マイホームの資金づくりにはありがたいけど」
「彩奈もそう考えてるの?」
「芝生のある家で、子育てがしたいそうだ」
「そうね。うちの苔が生えた庭じゃ、陰気な子に育ちそうだわ」
不動産屋のクルマに導かれて、案内されたのは高台にある真新しいワンルームマンションだった。
「こちらは、しかしお二人では」
などと訝(いぶか)しんでいる仲介業者を「今日から暮らせますか?」と言っておどろかせた。
契約書に押印すると、さっそくカギが引き渡されて、わたしは自由の身になった。その日の夕方までに、わたしは大輔に手伝わせて身のまわりの物をはこび終えた。
男の子のように育てようとした父親への、それはわたしからの復讐だった。忽然といなくなった長女をエスコートしたのが妹の旦那だとという事実は、すこしでも骨身にこたえるだろうか。その妹夫婦も、家を出ようと計画しているのだから――。
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