91人が本棚に入れています
本棚に追加
12年目のまぐわい
そして父親への復讐に興奮したわたしは、もうひとつの禁忌に触れたかった。
「ねぇ、彩奈は帰りが遅いんでしょ。転居がはやく片づいたお礼に、料理をご馳走させて」
「そうだな、腹がへってるよ」
「ごめん。お昼はハンバーガーで我慢してもらったから」
夕飯用に買ってあったピザとサラダ、そして海運会社の会長にもらったヴィンテージワインを開けた。
「十年以上になる? このメニュー」
「そうよ、十二年前に。あたしの部屋で」
そこから先は、想い出をなぞるような時間でした。気がつくと、わたしは全身を愛撫されて、大輔のそれを愛していました。
「ほんとうに、大人の女なんだ。君は……」
わたしのオンナの部分を愛しながら、大輔はくり返しそう言った。
「君のことを、おれは彩奈に投影したのかもしれない」
「それは言わないで」
気がつくと深夜になっていました。
「彩奈には、何て言うつもりなの?」
「君が酔っぱらって、介抱してたとでも言うさ」
「勘付かれたら、あたし生きていけないわ」
「心配ないよ」
それいらい週に一度、大輔はわたしの部屋に来るようになった。
大学の非常勤講師は日がな一日、未解読の史料に取り組んでいれば、暇そうでも時間が足りないほどだが、そこは何とでもなる。多忙そうな出版社の編集者も、一日を図書館ですごすことがある。そんなエアポケットのような昼下がりに、わたしたちは獣のように愛し合った。
最初のコメントを投稿しよう!