12年目のまぐわい

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12年目のまぐわい

 そして父親への復讐に興奮したわたしは、もうひとつの禁忌に触れたかった。 「ねぇ、彩奈は帰りが遅いんでしょ。転居がはやく片づいたお礼に、料理をご馳走させて」 「そうだな、腹がへってるよ」 「ごめん。お昼はハンバーガーで我慢してもらったから」  夕飯用に買ってあったピザとサラダ、そして海運会社の会長にもらったヴィンテージワインを開けた。 「十年以上になる? このメニュー」 「そうよ、十二年前に。あたしの部屋で」  そこから先は、想い出をなぞるような時間でした。気がつくと、わたしは全身を愛撫されて、大輔のそれを愛していました。 「ほんとうに、大人の女なんだ。君は……」  わたしのオンナの部分を愛しながら、大輔はくり返しそう言った。 「君のことを、おれは彩奈に投影したのかもしれない」 「それは言わないで」  気がつくと深夜になっていました。 「彩奈には、何て言うつもりなの?」 「君が酔っぱらって、介抱してたとでも言うさ」 「勘付かれたら、あたし生きていけないわ」 「心配ないよ」  それいらい週に一度、大輔はわたしの部屋に来るようになった。 大学の非常勤講師は日がな一日、未解読の史料に取り組んでいれば、暇そうでも時間が足りないほどだが、そこは何とでもなる。多忙そうな出版社の編集者も、一日を図書館ですごすことがある。そんなエアポケットのような昼下がりに、わたしたちは獣のように愛し合った。
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