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「よう、モレク」
『その名で呼ぶな。私には、神の名がある』
モレク。ヘブライ語表記の名だ。
恥を意味するボシェットの母音を当て
バアルをこう呼んだ。聖書の表記はモロク。
浅黄が、背から薙刀を突き立てた。
胸の下から刃が覗き、また実体化し出したけど
痛みを感じているように見えない。
死んだ蝗を ぼたぼたと落とし
地面から飛び移る蝗を吸収していく。
『そこを退け。それを貰おう。
蔵石と同じに、エンドルフィンを放出した。
高揚を覚える 癖になる味だ』
オレのことだ。喰う気でいる。
「バカ言え。渡せるか。こいつも俺の女だ。
てめぇの身体は 奈落に忘れてきたんだろ?
まだアバドンに縛られたままか?
モレク。悪魔だ、お前は。認めたらどうだ?
魂を喰っていないと、呪力が落ちる。
幽体のままだと、また奈落の身体に
引き付けられるのか?
血肉で新しい 地上の身体を 造る気でいやがる... 」
そいつの手が ボティスの首を掴んだ。
「ボティス!」
朋樹が そいつの手を拘束しようと赤蔓を伸ばし
浅黄が背から薙刀を引き抜く。
泰河がそいつの肩を掴むと、手の下から
ぼたぼたと蝗が落ちた。
「ダメだ 榊!」と、離れた背後からアコの声。
ボティスの隣に、白い煙が立ち上がっていく。
精霊だ。精霊は 女の形を造り
ボティスの首を掴む そいつの手首を掴んだ。
黒髪を後ろで 一つに纏めた、地味な風貌の女。
... 胡蝶だ。
そいつの手首を握り潰すように力を入れている。
ぼたぼたと蝗が落ちて、握った部分から
手首と腕が千切れると
胡蝶はボティスに顔を向け、ガッと口を開き
からかうように 笑って消えた。
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