36

6/7
613人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ
「よう、モレク」 『その名で呼ぶな。私には、神の名がある』 モレク。ヘブライ語表記の名だ。 恥を意味するボシェットの母音を当て バアルをこう呼んだ。聖書の表記はモロク。 浅黄が、背から薙刀を突き立てた。 胸の下から刃が覗き、また実体化し出したけど 痛みを感じているように見えない。 死んだ蝗を ぼたぼたと落とし 地面から飛び移る蝗を吸収していく。 『そこを退け。それを貰おう。 蔵石(あれ)と同じに、エンドルフィンを放出した。 高揚を覚える 癖になる味だ』 オレのことだ。喰う気でいる。 「バカ言え。渡せるか。こいつも俺の女だ。 てめぇの身体は 奈落に忘れてきたんだろ? まだアバドンに縛られたままか? モレク。悪魔だ、お前は。認めたらどうだ? 魂を喰っていないと、呪力が落ちる。 幽体のままだと、また奈落の身体に 引き付けられるのか? 血肉で新しい 地上の身体を 造る気でいやがる... 」 そいつの手が ボティスの首を掴んだ。 「ボティス!」 朋樹が そいつの手を拘束しようと赤蔓を伸ばし 浅黄が背から薙刀を引き抜く。 泰河がそいつの肩を掴むと、手の下から ぼたぼたと蝗が落ちた。 「ダメだ 榊!」と、離れた背後からアコの声。 ボティスの隣に、白い煙が立ち上がっていく。 精霊だ。精霊は 女の形を造り ボティスの首を掴む そいつの手首を掴んだ。 黒髪を後ろで 一つに纏めた、地味な風貌の女。 ... 胡蝶だ。 そいつの手首を握り潰すように力を入れている。 ぼたぼたと蝗が落ちて、握った部分から 手首と腕が千切れると 胡蝶はボティスに顔を向け、ガッと口を開き からかうように 笑って消えた。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!