第1章 鏡の中の世界

2/9
前へ
/37ページ
次へ
僕は物心がついた頃から、ショッピングモールが大好きだった。お母さんと一緒に連れられて見て回るブランド衣装は、どれも絵本から飛び出した様に華やかだった。 そして小学生に上がると、僕の興味は服からマネキンへと移行して行った。 表情の無い顔が、なぜか神秘的に思えたのだ。 「都築、またそれを見てるの?男の子なのに本当に好きなのね」とお母さんは僕に声をかける。 僕はいつも、この女の子のマネキンを眺めるのが好きだった。色んな衣装に変わるけど、いつも優しそうな顔に見えた。 僕と同じ位の身長だから、十歳くらいかな? などと想像を膨らませている。 マネキンはどれも同じ顔をしていると言うけど、この子は何処か違う気がしていた。 そんなある日、お母さんとモールまで買い物に出かけた。お父さんのセーターを選ぶのが目的らしい。 「都築、お母さん隣の紳士売り場を見て来るから、ここで待っててよ」と声をかけて来た。 「いいよ。ゆっくり選びなよ」 そして僕はまた、あのマネキンを見に行った。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加