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今、私が抱えている問題はこれまでになく深刻なものだった。
具体的なことはここでは言えない。
言って差し支えのない範疇というのは、確かにあるのだが、それは今の状況で言えることであって、明日も、明後日もその状況が続く保証はどこにもない。
臨機応変に対応することが求められ、そこには高度な柔軟性を維持する必要性がある。
それらを鑑みると、せいぜい言えることは、”女と言うのはかくも面倒なものなのか”という、男子にとって、いや、妻子を持ち、それなりの社会的地位と責任を持つ一人前と呼ばれる男であっても、これは永遠の命題であり、ポワンカレ予想のような数学の難題のように、それが解けた言われても、どこか腑に落ちない、気持ちの悪い存在である――つまりは知っていても解らない答えなのである。
「ご注文はお決まりですか?」
うっかり、何も注文をせずに考え事をしてしまった。
「ハンバーグのセットを、ドリンクバー付きで」
ライスかパンかと問われれば、もちろんライスで、私はそれにさっと塩を掛けて食べるのが好きなのだがが、絶対に女子の前でそれはしないことにしている。
うちの母親が良く父を叱っていた。
”ご飯に塩を掛けないでよ。塩分取り過ぎよ”
”なんでもいきなり醤油をかけないでよね。ちゃんと味付けしてあるんだから”
”カレーのスプーンをコップの水につけるの、やめてよね。みっともないったら、ありゃしない”
これが母親の小言であったうちは、父はまるで聞く耳を持たなかったが、私の四つ下の妹が二十歳を過ぎたころから母と同調してそれを言うようになってからは、母の前でしかやらなくなった。
さすがに2対1では分が悪いのか、私はそれを見て育ったおかげで、女性から怪訝な目で見られることのない人生を送ることができているが、同時に、相談事を持ち込まれるなど厄介な問題を抱えることとなった。
嗚呼、親父、あなたこそ、愚者を演じる賢者だったのかもしれない。
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