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「ニヤニヤ笑っとらんとすぐに教室に戻らんかっ!!」
そう顔を真っ赤にして怒鳴った体育教師の有山先生の迫力はなかなかのものだったけれど俺も雛人もそれにはもう慣れてしまっている。
特に雛人はサボりの常習犯だからなおのことだ。
「・・・春」
雛人のその声掛けと同時に俺は足を動かした。
雛人は俺よりも少し遅れて動きだしたけれど俺に追い付くまでに掛かった時間はほんの一瞬のことだった。
そんな俺たちの動きを見た有山先生は『あぁ!?』とドスの効いた声を発し、俺たちを捕まえようと動いた。
俺たちを捕まえようとする有山先生の手を俺と雛人はかわし、階段を競うように駆け下りた。
階段を駆け下りている途中、後ろからは幾度となく『待て! ゴルァ!!』と怒鳴り声が聞こえてきた。
その怒鳴り声で有山先生が俺たちを追って来ていることは明白だった。
高校三年生・・・。
巡る季節が移ろうのはあっという間だ。
俺と雛人はきっと違う道を選ぶ。
そうすればこうして二人で授業を抜け出してサボることも二人で先生を巻きながら走り逃げることもできなくなる。
「ありがと・・・」
俺はそう隣に居る雛人に無意識に言っていた。
それに雛人はニヤリとしただけだった。
雛人がもし、女の子だったなら俺は雛人に恋をしていたと思うし、その逆・・・俺が女の子でも雛人に恋をしていたと思う。
けれど、今、一番思うことは雛人が同性である男でよかったってこと。
男同士だからこんな馬鹿なことも一緒にできるんだと思うし、これからもこんな馬鹿なことをしたいと思う。
もし、本当に来世があるのなら俺はまた雛人と同性でありたい。
そして、また、一緒に馬鹿なことができる男友達でありたい。
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