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理解
翌日、僕は珍しく遅刻ギリギリで校門を通った。昇降口のところで、同じクラスの女子が上履きに履き替えている。吉野さんだ。
「あ、結城くん。お早う」
「おはよ」
下駄箱で靴と上履きを入れ替えながら、僕らは挨拶した。
朝の光が差し込む廊下。ホームルームの時間が近いので少し急ぎ足だった。僕の一歩に対して吉野さんは三歩くらいで付いて歩く。僕は速歩きのまま話しかけた。
「昨日のことなんだけど。もう一日くれない? ずっと考えてたけど、いい解決策が思い浮かばなかった」
僕は足を止めて振り返った。
吉野さんは突っ立ってぽかんとしている。
「早く。チャイム鳴るよ」
すると彼女も慌てて走ってきた。
僕らが教室に入るのと同時にチャイムが鳴った。ギリギリセーフだ。
「あっ、美優来た」
席に着く吉野さんの所にクラスの女子が近寄ってきた。
「今日遅刻する方に賭けてたのに」
僕の右後ろの方で何人かの女子たちが悔しがったり、喜んだり。後ろを肩越しに盗み見ると、吉野さんはいつもの調子でほわ、と笑っていた。僕はその笑顔で、何とも言えないべったりとしたものが纏わり着いているような気持ちになった。
「あ、先生」
担任が入ってきたところで、彼女たちは蜘蛛の子を散らすかのようにいなくなる。僕が感じていたネバネバも同時に四散した。
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