吉野さん

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「結城くんって、いつも空見上げてるよね」 その日の放課後も、昇降口から出てすぐに視線を上げた僕。夕焼に縁を黄金色に輝かせる雲。目を細めて、冷んやりと澄んだ空気を吸い込んだ時だった。 背中に掛けられた声に振り返ると、同じクラスの吉野さんが遠慮がちに笑っていた。 ピンクのマシュマロ。または眠っているハムスターを彷彿とさせる女の子だ。身長は多分140センチくらい。中学二年生にしてはちょっと背が低いかもしれない。 席は僕の後ろ。話したことはあまりないが、休み時間になると、必ず誰かが彼女の世話を焼いているような印象がある。自己主張がなく、ぽわ、としていた。 「悪い?」 メガネのブリッジを中指で押し上げ、尋ねた。僕に悪気はないが、女子に慣れていないため雑な話し方になる。吉野さんは蛇でも見たかのようにビクッと震えた。 「そういうんじゃないけど、なんでかなって……」
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