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「ちっげーよ! 嫌いな奴の頭をフルスイングでカチ割るイメージだよ!」
「余計怖いんだけど! マジなんなんだよ!」
「あははははは!」
まったく、わけのわからない女だ。うららはいつもそうだ。そろそろ俺が慣れるべき、というか慣れてきていることに、人間の逞しさを感じて遠くを見る。
意味もなく学校に残って、呼ばれたわけでもないのに勝手に傍で恋についてなんて考えているのが悪いというのならまあ悪い。というかほんと、何してんだよ俺。自分の間抜け具合とさっきまで頭を使っていたせいでぐったりだ。
一番星でも探そうと目だけ動かしていると、「ねえー」と声をかけられ、続いて視界に顔が乱入してくる。
「喉渇いた」
「そりゃあそれだけ素振りしてたらな」
「飲みもの買いに行こうぜ」
「俺は渇いてないぜ?」
「パシらせようと思ったところを譲歩して一緒に買いに行こうって言ってるんだから、文句言うなよ」
「文句しか出てこねえよ。まったく」
「おらおらあ、行くぞおらあー」
「ゆるゆるじゃねえか」
バットを担いだ女の後ろを歩きながら小銭を確認する姿は、傍から見たらカツアゲに見えないだろうか。正義感のある誰かよ、決して関わることなかれ。冗談じゃなく死ぬ危険ありだ。大丈夫、俺はカツアゲにはあっていない。
こいつは見た目こそ金髪で化粧ばっちりでギャルそのものだが、自分の体に穴を開けるなんてとピアスを怖がるし、綺麗かもしれないけど一生消えない傷をつけるなんてとタトゥーを怖がるかわいいところもあるし、実は誰とでもわけ隔てなく接することができる奴なんだ。学校では周りが決して関わろうとしないだけで、年寄りなんかには結構可愛がられている。
そういうところを知っているくらいには、俺はこいつと関わっている。まあ有り余るやばさもあるにはあるが。さっきまでの不穏な素振り然り。
どうして関わっているのかっていうのは、それこそさっきまでの物思いに戻ることになる。
本当に、恋ってやつはわからない。
缶ジュースを美味そうに一気に飲んで「ぷっはあ! しみるぜえ!」完全に仕事終わりにビールを飲むおっさんの様な事を言いながらいい顔しているうららを見て、緩みかけた顔を苦笑いに見せかけている自分に、心底驚いている。
俺はどうして、こんな奴を好きになってしまっているのだろうって。
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