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 次の日にもう一度試して、子供の頃の自分に会えたなら、今度は世一とか凛李ちゃんの子供の頃に会って劇的な出来事になっちゃうんじゃねぇのと期待していたが、今度はなんでもなく、クソ暑い夏の夜に飛ばされて、ちょうどよく俺達が現代で通っている高校の近くで花火大会があったからそこに向かった。もちろん人でごった返していて花火を静かに見られなさそうだし、なんなら花火自体見られなさそうだ。「こいつら全員かっ飛ばしてくか?」と不穏なことをにやけながら言ってのけるうららを抑えてつつ、当初から考えていたが流石にまずいかと悩んでいた案を、過去だし現代では恐らくうららの夏期講習があるから一緒には見られないだろうと、高校に侵入し屋上に出ることにした。  鍵はもちろんかかっていた。だが屋上側から開くタイプの物であることは現代で知っていたから、コンビニで買ったガムテープを窓の部分に張り付けて、うららにフルスイングしてもらうことでガラスを出来るだけ飛び散らないよう、そしてあまり大きな音にならないように割り、ガラスのなくなった窓から腕を伸ばして鍵を開けた。  屋上に出ると、下より少し風があるが、だからといって冷たいわけじゃなく気持ち悪い。それでもないよりはましかと享受し、屋上の真ん中で花火が上がる方を向いて座って、やがて上がってきた花火は綺麗だった。久々に打ち上げ花火なんか観たかもしれない。下から見るか横から見るかという二択なら、下から見た記憶は薄れかけているが、それでも俺は横からの方が好きだ。何事も少し遠くからが、対岸の火事が一番綺麗なもんなのかもしれない。 「たあああまやーい!」  うららは俺と違って風流を噛みしめることなんてことはせずに歓声を上げている。楽しみ方なんてものは人それぞれではあるけれど、今ここで騒ぐのはあんまりお勧めしないっつーか出来れば控えてほしいんだが、楽しそうなのを見てるとどうにも止めにくい。すでに不法侵入の時点で犯罪なわけだから、今さら何がばれようとどうしようもないし、それにどうやらもうすぐ起きるみたいだから、見つかったってさして問題はない。結局最後まで花火は見れなかったが、代わりに警備員には会わずに済んだ。  次の日からはうららの夏期講習が始まって、過去に行くことは出来なくなったが、代わりに二人で過去に戻るルール、法則について、夏期講習終わりの帰り道で話合っている。
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