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 だから、夏期講習が終わった時には、忘れてはいなかったが過去に戻れることなんて大したことじゃなくなっていた。  うららが勉強頑張っている間、俺は何をしていたかというと、勉強面で言えばほぼ何もしていない。夏休みに入る前に先生と相談して何処に行くかは大体目星はつけているし、三年は夏休みの宿題も免除されているから本当に何もしていない。個人的に気になった歴史上の人物を調べてみたり哲学の本を呼んでみたり古典文学に触れてみたりなんてしてはいるが、これは趣味と言えてしまう。趣味ではないけれど趣味レベルだ。  だから世一の弁当を作ったり応援しに行ったりしていたわけだ。 「お前さん、小倉うららとは遊んだりしないのかい?」 「そうだよずっとこっち来てるじゃん」  ある時部活帰りの世一と凛李ちゃんに不思議がられてしまった。いや一人威嚇も入ってる気がするけど。 「遊ぶって、夏期講習中だし」 「休みくらいあるだろうさ」 「そういうのって休みの日予習復習するんじゃねぇの?」 「かあーっ、優等生の回答!」  凛李ちゃんまで嫌そうな顔しなくても。 「いや、普通の授業ならいざ知らず受験勉強だぜ? 毎日がスタディーだろ?」 「はるるんが言うとムカつくね」 「まったくだ」 「はっはっは」 「的にしてやろうか?」 「だからとりあえず、夏期講習が終わるまでは、例えあいつが休みでも呼ばれない限り会わないことにしてんの」 「立派なことで」  筆頭バカップル様の片割れに肩を竦められてしまったので、やはり俺達の有り方は他とは違うらしいが、そもそもあれとこれが付き合っていること自体が特殊と見れなくもない。自分達が常軌を逸していることを自覚してしまうと、わりと人間楽なもんだ。  それに、俺は俺でしっかりとバカップルしているつもりだった。 「あ、じゃあさじゃあさ! ダブルデートしようよ!」  信号待ちをしていたら元気にそんな提案をされてしまった。 「なんて?」 「だぶるるるでいぃとぅ」 「ごめんよりわかんなくなった」 「四人でどっか遊びに行こうよ! 遊園地とか! ショッピングモールでもいいよ!」  なんとも面倒そうだ。この暑いのにわざわざ陽射しの下で遊ぶなんて。何よりダブルデートという言葉の響きにげんなりしてしまう。  ここはやんわりと断ろう。目配せして世一に協力を仰ごう。 「いいんじゃない? たまには」 「本当!? いいのよっちー!」
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