3.

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「俺は隣の方がいい」 「ふーん。そう」  電車が動き出して数分で景色はさっきまでの比ではないくらい変わっていく。緑が多くなっていく。  人もいないしと弁当を広げて食べてしまった。おにぎりと軽くおかずを持ってきた程度にしてよかった。  食べ終えて、外の景色を見てはしゃいでいるうららは子供のようだった。少しして静かになったところを見計らって気付かれないように写真を撮ってみる。 「あ、何してんだ」  シャッター音でもちろんばれる。 「たまにはこういうのもいいだろ?」 「ダメだねあたしカメラ目線じゃない。やり直しを要求する」 「はいはい」  撮った写真を見て満足いったようでドヤ顔だった。  最近は、うららは笑わなくなってきている。笑顔がないとかそういうことではなく、あの狂ったような笑い方をしなくなってきた。おそらくあれは威嚇みたいなもので、確かにあの笑い方をされると近づき難さがある。不気味な感じがしてしまうんだ。それをわかっててやっていた、のかどうかはわからないが、それがなくなってきているというのは、心を許してくれているんじゃないかって、勝手に自惚れている。  ちゃんとこいつの傍にいられているんだって感じられる。  ずっとテンション高くしたからか、写真を撮ってからうららは「ちょっと休憩」と言うとうとうとし始めた。腹が膨れたというのもある。俺も生活リズムが崩れがちの中朝早く、もないがいつもより早く起きたから眠い。肩にうららの頭が乗って体温が移ってくるといよいよ目を開けてられなくなって、それがとても心地良かった。  こういう時間をもっと過ごしていけば、いつかバットを持たないで済む時が来るかもしれない。それはそれでなんだか寂しいけれど、まあそうなったら、たまにバッティングでもしよう。  その日の為に、投球練習を、しておかないと――。 ○  ここは、何処だ。頭がぼんやりする。でもこの感覚は知っている。なんだったか、ええーっと、そうだ、過去に来たんだ。そうだった、昼寝をしたら過去に行くんだった。忘れていた。  周りに見覚えはないな。高校の近くか? 学校の周りはあまり知らないからな。住宅街だから、うららの家の近くか? そっちの方が可能性あるな。ならうららが知ってるかもしれない。うららは何処だ。そう離れた所にはいないはずだけど。  きょろきょろとしていたら、角を曲がって行くうららの姿が見えた。
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