422人が本棚に入れています
本棚に追加
その夜、マサオはほとんど眠ることができなかった。変な時間に寝てしまったのに加え、違和感の種が次々に芽吹いて、睡魔をも吹き飛ばしてしまったからである。
マサオが先ほど使わせてもらった寝室らしき部屋には、長沢が先に入った。その後「しっかり休めよ」とマサオに言った健太も、なんとその部屋に入っていったのだ。
トイレに入ろうとして、マサオは思わず二度見、いや三度見してしまった。同じ部屋に男二人――いやいや、問題はそこじゃない。健太と長沢というかつて犬猿の仲だった二人が同じ部屋に入っていったのだ。そこが問題というか、あまりにも衝撃的だった。
翌朝、マサオは心に決めた。二人に訊こう、と。この違和感の根源――何がきっかけで引っ越しを祝うために、家を訪れるまでの仲になったのかということを。
なんとなく訊けていなかったが、自分は訊いてもいいはずだ。なんせ、仲が最上級に悪かった頃の二人をようく知っている。
「朝飯用意してるから、今のうちにシャワー浴びてきな」
健太にそう言ってもらい、マサオはシャワーを浴びるため浴室に向かった。脱衣所でジャージを脱ごうとしたら、ワイシャツにネクタイ姿の長沢が入ってきた。
急に入ってしまったことに対してなのか、長沢が「すまない」とぺこりと頭を下げる。
「長沢さんは今日お仕事っすか?」
「ああ。すぐ済む」
「いえいえ! 俺のことは構わずに、ゆっくり準備してくださいっす!」
長沢は歯ブラシ置き場から歯ブラシを慣れた手つきで取り出すと、歯磨き粉をつけて大雑把に歯を磨いて口をゆすいだ。これまた慣れた手つきで、長沢が歯ブラシ置き場に歯ブラシをカランと戻す。その際、マサオの目にあるものが飛び込んできた。
それは、もう一本の歯ブラシ。たった今、長沢が使って戻したものと色違いのそれが、歯ブラシ置き場に立てかけられていたのである。
そういえばコップも二つある。しかも、これも色違い。目をパチパチさせて「あの……」と、声をかけると、タオルで口を拭く長沢が「ん?」とこちらを向いた。
「すげー今さらなこと聞きますけど、ここって……長沢さんも住んでるんすか……?」
最初のコメントを投稿しよう!