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なんとなく終わりの雰囲気が漂り、ビールも焼き鳥も、結局ほとんど残して三人は会計をたのんだ。
菊池とマサオが財布をだす前に万札を二枚、女性従業員にわたして会計を済ませる。店を出た後、金を渡そうとしてくる二人だったが、健太は受けとらなかった。
最初に折れたのはマサオだった。「ごちそうさまっした」と体育会系に頭を下げた。
「ありがとね。今度なんかおごるよ」
菊池はそう言って、牛革のトートバッグに財布をしまった。
今日の飲み会は自分がどうしてもと言って、二人を付き合わせたものだ。ご馳走するのが当然だと思っていた。
午前二時。明日もアルバイトがあるけれど、午後からだ。本当はもっと飲んでいたかった。
四月の生暖かい空気が頬に触れる。心が浮足立つのを感じずにはいられない。
「部屋で飲みなおそうぜ」
後ろを歩く二人に振り向いて、健太は提案した。「いいっすね!」と手を叩いて大学生のマサオが乗る。
「マサオは長沢さんに謝らないと。気付かなかった僕もいっしょに謝ってあげるから」
「まじっすか! 菊さんやさしい~」
「二人とも謝る必要ねえって」
三人でタラタラと歩きながら我が家へと帰る。
健太には夢があった。
映画やドラマの俳優になって、有名になって、成功する。
毎日夢を頭の中で描きながら、同じ夢を持つ者同士で語り合える今の環境が、健太は本当に好きだった。いとおしくて、楽しくてしかたがない。自分は恵まれているのだと、心底感じる。
健太はうつむき加減だった頭を上げる。
「いいなあ、こういうの」と、めいっぱい背伸びをして、どこまでも続く天を仰いだ。
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