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玄関のドアを開けると、中は真っ暗だった。
「あれ。長沢さんいないのかな?」
菊池が玄関の明かりをつける。靴を脱いで収納棚の個人スペースにしまうと、誰よりも先にリビングへと向かっていった。
「菊さん、クソメガネのこと気にしすぎ。なんでそこまで気にかけるかなあ」
菊池の背中を見ながら靴を脱ぐ。横では「菊さん、争い事嫌いっすもんねえ」と一番年下であるマサオが分析していた。
二人が靴を脱いでいる間に、菊池は次々と部屋のあちこちの電気をつけていった。その行動が、なぜか菊池の性格を顕著に表しているなと思った。
健太はリビングに直行し、テーブルの上にコンビニで買ったビールやつまみを広げていく。
「マサオ皿だして」
「ういっす」
マサオは上棚から数枚の皿をだして、テーブルに並べていった。
飲みなおすためにいそいそと準備していると、風呂場の様子を見にいった菊池が戻ってきた。
「やばいよ、二人とも」
ただでさえ血色のいいとは言えない顔が、さらに白くなっていた。菊池は眉をひそめる。
「お風呂湧いてる」
やってしまったと怪訝な顔をする菊池に、健太は噴きだした。
「だからなんだよ。あいつが勝手にやったんだろ。俺の言ったとおりじゃん」
「長沢さん、部屋ですごく怒ってると思う。今日は飲みなおすのはやめておこう」
菊池の提案に、健太は「はあ?」となる。
「なんでだよ。なあ? マサオ」
同意を求めてマサオに目をやると、バツが悪そうに頬をひくひくさせて笑っていた。普段は健太寄りのマサオだが、長沢秀行が絡むとそうもいかなくなる。自分よりも長沢に怒られないことのほうが重要なのかと、いつもイラッとする。そういったところは、ちゃっかりしているのだ。
「明日謝ろう。ね、マサオ」
「そ、そっすよね……」
長沢の機嫌を気にする菊池にも、ちゃっかしいマサオにも苛立った。
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