お前と俺。

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「……野中、」 「――悪い! もう祝ったし俺、帰るわ。伊折は香奈ちゃんと幸せになれよっ」 それを隠すように、無理に笑って外へ飛び出した。 本当はまだ心のどこかで、結婚なんて取りやめにしてくれるんじゃないかとか、 俺の気持ちに気付いてくれるんじゃないかとか、 あわよくばそれに応えてくれるんじゃないかとか、 そんなことばかり期待している。 ……ありえないことなのにな。 俺にとっての『正常』はお前にとっての『異常』だから。 だから、諦めなくちゃいけない。 どうか、一生気づかないでいてほしい。 俺の気持ちなんて知らないまま、生きていてほしい。 香奈ちゃんと……幸せになってほしい。 ……あぁ、もう、まただ。 涙が邪魔して、認めさせてくれない。 お前が結婚するなんて、今でも認めたくなかったんだ。 嘘だといってほしかった。 どうして、俺を置いてお前は……。 大好きだった、本当に。 なんでお前だったのかなんて、少し考えれば案外すぐに答えは出せた。 お前が俺に向ける笑顔が眩しすぎたからだ。 孤独だった俺の心に響くのは、お前の言葉と笑顔だけだったから。 たったひとつの、救いだった。 なぁ、俺……今でも好きだよ。 その瞳に、俺はどれだけ映っていられたかな。 お前の記憶に、俺はどれだけ残っているのかな。 学生生活、お前のそばに俺はどれだけいられたのかな。 分からない。もう、何もかも。 分かりたくもない。……そう、知りたくなかっただけなんだよな。結局は。 (……じゃあな、俺が唯一好きになった人……。) もう、会うことはないと思う。 この先好きな奴なんてできないと思う。 ……だけど、だけどさ。 お前の幸せは、誰よりも願っているつもりだったよ――。
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