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だけど、ごめんな……。
お前を幸せにするのは、俺じゃない。
いっそ、あの時、俺と香奈が付き合うことに対して「嫌だ」と言ってくれれば、付き合わなかったのかもしれない。
俺もお前も、臆病だったろ。ずっと。昔も……今も。
「せめて想いくらいは伝えておいたら?」
「……そんなことしたら、離れられなくなる。」
「あら、いいのよ。私とは上辺だけの夫婦でも。なんなら、野中くんの元で一緒に暮らしたって。」
「彼、一人暮らしだったわよね」なんて付け足して。
「……できるもんならそうしたいけど……。」
「なにか心配でも?」
「俺はいよいよ野中を離してやれなくなる。」
「なんだそんなこと。別に離してやらなくても、たまに野中くんと一緒に顔を見せに来てくれればそれでいいわよ。」
なんて優しいやつなんだ、と改めて思う。
「……でもやっぱり、できねえよ……。」
「そう。残念ね。……野中くんが悲しむわよ。」
「……そう、かもしれないけど……。」
「ふふ。難儀してるのね。」
俺が、不器用なせいで。
野中を傷つけることしかできないなら、俺は喜んでアイツの前から姿を消すだろう。
「……だけどね、伊折くん。少しくらい素直になってもよかったんじゃないの?」
素直になれていたら、きっと今頃アイツはまだ俺の隣で笑っていたはず。
もったいないことをしている自覚はある。
……あるけど。
もう今更、こんなのどうしようもないじゃないか。
「このまま諦めちゃうわけ?」
「……そうするしか、ないんだ。」
「そうかしら。伊折くんは本当に自分が傷つく道しか選べないのね。」
「今までも、そうやって生きてきたからな。」
誰かが傷つくくらいなら、自分ひとりだけが傷ついた方がいいって、ずっと思っていたんだ。
だけど……。
『おめでとう、お似合いだよ。』
きっと野中は、こんなことを言うだろう。
そんなことを言われたら、俺は辛くてたまらなくなる。
野中にだけは、応援なんてされたくないよ……。
「……バカね。」
「自分でもそう思う。」
バカでも、いい。
野中の幸せを奪うような真似はできないから。
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