涙なんて、

5/5

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
俺と野中は、毎日からまわってた。 恋するには、向いてない。 あの頃、俺だけに向けられていた笑顔が、「伊折」って呼ぶ声が、俺について歩くアイツが、何よりも大切だったんだって今更になって気づいた。 ――もう、遅い。 もう少しはやく気づいていればなにか変わったんだろうか。 だとしたら、どこで道を踏み間違えたのか。 俺はなにもわからない。 お前は嘘をつくのが下手で、俺は不器用で。 両片想いだったのに、すれ違った。 『同性』なんて厚い壁が俺と野中を(へだ)てても、愛さえあれば関係ないと思ってた。 でも、違ったんだよ、なにもかも。 野中の幸せは、俺と一緒にいることじゃない。 お前の幸せを願うばかり、自分の幸せを手放した。 香奈を利用して、自分の気持ちに(ふた)をしようとした。 女と付き合えばこの気持ちも忘れられるんじゃないかって……。 だけど、無理だった。 野中への気持ちは俺が想像するよりずっと大きくなりすぎていて、忘れるなんて到底無理な話だったんだ。 ……悔しいけど、これでお別れ。 もう、野中のことを苦しめたりしないよ。傷つけは、するかもしれないけど。 だからどうか、これからも一生『友達』として……。 俺のそばで、ずっと笑っていてくれ。 ――さようなら、好きな人。 お前の涙なんて、 (……もう見たくないから。)
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加