忘れ得ぬ人

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「私、料理作るから、これ買ってきて」と、食材のメモを渡しためぐみ 夜帰宅した私に、突然抱きついてきて、「お願い、このままでいて」と言っためぐみ 仕事で疲れた顔を見せた私に、「そんな会社辞めちゃえ」と言っためぐみ ずっと機嫌がよく、可愛い笑顔を見せてくれためぐみ 夜中にいなくなり、私を不安にさせておきながら 「散歩してきただけだから」と言っためぐみ そんなめぐみのすべてが愛おしかった めぐみが看護師の勉強をしていることを知り 浩一も、仕事の忙しさで忘れていた絵を再び描き始めた 絵で食べていける自信はなかったけれど 絵を描くようになったことで 自分にも「未来の灯」が見えたように思えた 幸せな時間は長くは続かなかった 「私、今日ここを出ていきます」 いつかこの日が来ることはわかっていたけれど 浩一は、ただ狼狽えた しかし、浩一に彼女を止める権利は何もない 「浩一さん、何も言わず、何も聞かずに私をずっと置いてくれたこと、本当にありがとう。これでお別れだけど、最後に一つだけ言わせて。私は、浩一さんの描く絵が大好きだった。浩一さんが生き生きと、一生懸命、絵を描く姿に、浩一さんの絵に、これからも生きていく勇気をもらいました。浩一さんの絵には、そんな力があると思う。だから、これからも絵を描くことを続けて下さい」 抜け殻のようになった家の中で、浩一はテレビをつけた めぐみが来てからは一度も付けたことのないテレビ もし、テレビの報道番組で、めぐみのことを知ってしまったら めぐみを帰さなければならなくなると思ったから テレビのニュ-スでわかったことは めぐみは、本当は栗山ちひろという名前であったこと 高校2年生で、この春には3年生になるということ 母の連れ子で、父親とはうまくいっていなかったこと 学校では、いじめの対象とされていたこと 進学についても悩んでいたこと でも、めぐみが、この1か月の間、浩一の家にいたことを何も話さなかったため 厳しい冬の1か月の間をどうしていたのかと大騒ぎになっている 「謎の1か月」と言う言葉が乱舞していた
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