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ああ、そんなことを考えていたらまた、居ても立ってもいられなくなってしまって、私は席を立った。
店を出ると、外の新鮮な空気が肺を満たした。常日頃持ち歩いている、日傘と雨傘、両方使える傘を開き、私は通りを歩き始めた。下を向き石畳の模様ばかりを見つめながら、どこへともなく足を動かす。頭上を覆う真っ黒な傘は、往来のさなかにある私を、どこか遠い世界に居るような気分にさせた。
何事かを考えているようで、何をも考えていないような、いわゆる『無』の境地を彷徨って、気付けば私は広々とした公園に辿り着いていた。
噴水の隣にある東屋、そこには先客が居た。
あの人だった。
風になびく黒髪を手で押さえながら、遠くの景色を見ている。純白のワンピースとアラバスターの肌は同化し、今にも透けてしまいそうに思える。甘い香りが、離れたところに居る私の元までも漂ってくる錯覚。
その姿を目にした私は、もう、込み上がってくるものを抑えられずに、脇目もふらずに、一目散に、全速力で駆け出した……。
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