カゲオクリ。

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『どう?影が、青い空に白く映って綺麗でしょ?今度は自分の影でやってごらん』  綺麗――なものなど、何一つ見えなかった。  隣で微笑んでいる、まだ年若い女性である彼女が。空では歪な、笑っているような泣いているような顔で浮かんでいるのである。その唇は派手に裂け、目は飛び出し、頬は引き裂け頭は割れ――一言でいってとてもグロテスクな有様だったのだ。  幼いながら、僕はきっと聡明だったのだと思う。自分の影で影送りなど絶対してはいけないのだ、と悟った。だから僕は他の遊びがしたい、と彼女に告げたのである。どうやらその残酷極まりない“影”は、僕にしか見えていないようだったから。  そして、それから三日後のこと。  僕と遊んでくれた彼女は、トラックに撥ねられて――死んだ。タイヤの下敷きになった彼女の死に様はそれはそれは惨たらしいものであったという。僕は、実際彼女がどんな死に方をしたのか、その遺体を実際に見たわけではない。お葬式には出席したけれど、彼女の棺桶はしっかりと蓋が閉まったまま、一度も開くことはなかったのだから。彼女の親族らしい人達の声が聞こえてきて、彼女の遺体の酷さをなんとなく想像したに過ぎないのである。  もしかしたら、僕が影送りをすると――僕、は空に影を送った人の死に様が見えてしまうのではないだろうか。なんとなく予想はしたが、まだ確信には至らなかった。そこで僕は、その遊びの名前を教えてくれたおじいちゃんの影で試してみることにしたのである。お爺ちゃんはもう九十歳を超えていて、時々ボケてしまっている様子も見えていた。きっと死んでしまってもそんなに悲しむ人はいないんだろう、と僕は思ったのである。幼いとはいえ酷いことを考えたものだ。  果たして、その予想は正しいと証明された。  僕がお祖父ちゃんの影を送ると――空のお爺ちゃんは首を吊って、木の上からぶらんぶらんと揺れていたのだった。首吊りってドラマで時々あるけれど、実際のものはもっと残酷で汚いんだな、と思った記憶がある。いろんなものを垂れ流し、真っ黒に腫れ上がったお祖父ちゃんの顔は見るに絶えない醜悪なものであったのだから。
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