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『右側のドアが開きます、ご注意ください』
列車は深いため息を吐きながらドアを開ける。いつだってそうだ。終わらない仕事に苛立っているのか、それとも俺の心を代弁しているのか。流れ込む秋風に逆らって降車する人々に、俺たちは流される。
ホームと列車の暗い隙間をまたいだその瞬間、指先から熱が離れていく。代わりに宿るのは、恐ろしいほどの寂しさだ。
だから満員電車が、嫌いだ。
一歩遅れの赤茶の髪と、一歩止まって歩を合わせ、二人並んで改札へ向かう。今日は少し寒くなる、と天気予報が言っていた。
「お前もそろそろ学ラン着ろよ」
「あー、だなぁ」
いつもだって寂しさだけを残して走り去る。俺は満員電車が、大嫌いだ。
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