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会社への道を係長の後ろからついていくと、壁にぶつかった。
違う。
係長だ。
「いきなり止まらないでくださいよぉ。」
「上野が前を見てないんだろう。」
そうですけど……。
係長が右手を上げる。
「はい。係長。」
「なんだ。」
「いや、手を上げてるから何か言うのかと思って……。」
「バカか。」
そう言って係長は目の前に止まったタクシーに乗り込んだ。
「お疲れ様でしたーーー。」
今日一番の笑顔で見送る。
「嬉しそうだな。
たが、そうはいかない。」
係長に腕を強く引っ張られて、私もタクシーの後部座席に座ってしまう。
その間に係長は行き先を運転手に告げている。
「会社はすぐそこですから、私は歩いて行きますよ。」
動き出すタクシー。
運転手さん、聞いてますかぁ??
「そんなに酒臭くて会社に戻れるか!!」
「大丈夫ですよ。
もう誰もいませんから。」
「守衛がいるだろう。」
「黙って笑顔で通り過ぎる。」
「それで通れたら守衛はいらない!」
「ですよねー。」
「お前本当に俺をバカにしてるのか??」
「そんな訳ないじゃないですか。
私は係長を尊敬してますよ。」
疑うような目つきの係長。
「悪魔の様に怖くて何考えてるかわからないですけど、凄く真面目で優しくて、さり気ない気遣いが素敵で、悪魔の様に恐ろしいです。」
「褒めてるのか?けなしてるのか?」
「褒めてます。素敵です。」
耳まで赤くなる係長。
「かわいい。」
「やっぱりバカにしてるな!!」
なんか楽しい。
アパート追い出されたけど、係長とこんなに楽しく話せたから、プラスマイナスゼロかな?
だって係長のこんな顔、きっと会社の人は知らないもん。
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