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「大丈夫ですよ。
今日は酔いません。」
「そう?」
「はい。
今日は安心させてくれる人がいないので酔いませんよ。」
「安心させてくれる人?」
「そう。
酔っても最後まで面倒を見てくれるから大丈夫だって思わせてくれる人です。」
「俺、送ってくよ。」
「いや、いいです。」
思わず即答してしまった。
「俺は安心できない?」
「安心は……できません。」
ここも即答してしまうのは悪いかと思って一応考えるふりをして、角が立たないように笑顔で答えた。
私の言葉に周囲の数人が『ハハハ』と笑った。
村田さんも
「ひでーな。」
と言って苦笑いしている。
「上野さんって、結構はっきりものを言うんですね。
係長にもそうなんですか?」
「係長にも言いますよ。
時々ですけど。」
スゲーとあちこちから聞こえてくる。
「前に係長に送ってもらった事あったよね。
係長はいいの?」
私が係長が好きだと知っていてわざと村田さんが聞いてくる。
「係長は家が近くだから。
家が遠い人にタクシーで送ってもらうのは気が引けませんか?
仲のいい人なら遠くまで送って貰っても後で埋め合わせできるけど、そうじゃないのに送ってもらったら借りが出来ちゃうじゃないですか。
私そういうの嫌なんです。」
「そういうことか。
しっかりしてるね。」
村田さんは理由を聞いて少し安心したみたいだった。
安心しなくていいんだけどな……。
でも今は他の人もいるから係長との事を匂わすような事は言えないし……。
下手なことを喋ってしまう前に帰ろうと、時計を確認する。
ちょうど飲み放題の時間が終わるのでみんなが帰り支度を始めた。
誰かの『二次会ー。』
という声に私は手を横に降って会費を払うと、最初に隣に座ってた人が、
「上野さんって面白いよね。
アドレス教えてよ。」
スマホを手に目の前に現れた。
「あっ。
ごめんなさい。
スマホ冷蔵庫の中だ。」
「冷蔵庫??」
近くにいた人みんなが振り返った。
「はい。
鬱陶しかったので冷蔵庫に入れちゃいました。」
村田さんがお腹を抱えて笑ってる。
「俺やっぱ上野好きだわ。」
村田さんは私だけに聞こえる大きさでそういった。
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