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「名前で呼ばれるのってちょっと抵抗あるんですけど……。」
「仲良くなればいいんでしょ?
また飲みに行こうよ。」
怖くて係長の顔が見られない。
どうやって断ろう……。
「しばらく飲み会はいいかな……って思ってるんですよね。
もっと可愛い子誘ってくださいね。」
これなら当たり障りないだろう。
「俺、沙也加ちゃんみたいなハッキリ物を言う子好きなんだよね。
毒舌も嫌な言い方しないから面白いし。
また飲みたいと思って。」
毒舌キャラになったつもりはないんだけどな……。
私が困っていると、どこからともなく一人の男性が話に入ってきた。
「朝からナンパすんなよ。
こいつ手早いから気をつけて。」
その人が近くに係長がいる事に気付いて話しかける。
「おっ、飯田。
お前結婚すんの?」
近くにいた全員が係長に注目して、周りが急に静かになった。
「なんだそのガセネタは。」
「なんだよ、ガセかよ。
でも一部ではそのネタで持ちきりだぜ。
嘘言ってる訳じゃないよな?」
「嘘なんて言ってないから。」
多分私が男の人に声をかけられた事で機嫌が悪いところにそんな事を言われても、ポーカーフェイスの係長の顔からは表情は伺えない。
けど、機嫌の悪さが目に見えないオーラの様なもので感じ取れる気がする。
さすがの私でもちょっと怖い。
「親父さんの病院に美人と腕くんで通ってるって噂だぜ。
親の見舞いに通うくらいだから親公認だろうって。」
「それは……だ。」
そう言って係長は立ち去った。
「今なんて言ったか聞こえた?」
先程から私を飲み会に誘ってる人が私に聞く。
「いえ、聞こえませんでした。」
周りの人も聞こえなかったみたいで、『何だって?』と口々に言っている。
そのお陰で飲み会に誘われていた事をすっかり忘れたまま事業時間になって、慌ててそれぞれの持ち場へ走って行った。
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