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その日、終業時間を告げるベルがなると、どこからともなく朝私に声をかけてきた人がやってきた。
「沙也加ちゃん飲みに行かない?」
「行きませんけど、何か?」
「そのハッキリ断る感じがクセになるね。
OKもらうまで誘いたくなるよ。」
「時間の無駄ですよ。」
「タカちゃん、私を誘いに来たんじゃないの?」
私とのやり取りを見ていた金子さんが声をかけて来た。
「金子さんはもう充分っす。」
「何それ。
私はいつでもOKだから早くイケメン沢山連れてきて。」
「もういないっすよ。
俺が知ってる限りは紹介しましたから。」
二人が盛り上がってるのでさり気なく立ち去ろうと静かに歩き出すと、
「そうだ、沙也加ちゃん。
スマホ冷蔵庫から出した?」
しっかり見つかってしまった。
「ああ……まだです。」
昨日は急に係長が来てあんなことになっちゃったし、朝も何とか起き出した感じでそのまま冷蔵庫に入れたまま忘れてきてしまった。
昨日の飲み会の時同様、周りにいた人がみんなこちらを見る。
「良かった。
調べたら、そのまま出さないほうがいいらしいよ。
そのまま外に出すとスマホの内部が結露して壊れることがあるって。」
「そうなんですか?」
「おっ。
俺の話に興味持ってくれた?」
「スマホ壊したくはないんで。
で、どうしたらいいんですか?」
「本当は冷蔵庫に入れる時にやるらしいけど、冷凍保存用の保存袋に入れるんだって。
それでそのまま冷蔵庫から出して、保存袋の中の空気が外気温位になったら出すらしいよ。」
「そうなんですか。
ありがとうございます。
早速やってみます。」
良かった、昨日出さないで。
「お礼に飲みに行こうよ。
俺奢るし。」
「それ、お礼って言いますか?」
「来てくれるだけで充分お礼だよ。」
「じゃあお礼にコーヒーご馳走しますよ。」
「えーー。」
「じゃあお礼は感謝の気持ちだけでいいですか?」
「それは……じゃあいいよ、とりあえずコーヒーで。」
「わかりました。
明日用意しときますね。」
「用意?」
「はい。
明日の朝、ここに来てください。
じゃあ、お疲れ様でした。」
そう言ってその場を立ち去った。
ああ、係長の視線が痛い。
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