花さんの臓器。

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「中島さん、そろそろ時間だけど?」 後ろでお膳を片付けながら、同僚の看護師が呼ぶ。 「あ、はい!今行きます。」 そう返事をすると、残っていた食事を素早く口に入れる。 落ち着いて、お茶を飲み席を立つ。 「お先に失礼します。できれば、内密でお願いします。」 と言うと、さっきまでの態度が嘘のように、彼女の頭の先から足の先までが、薄い鎧のような、ピンとした空気の膜が張られるように思えた。 (オンのスイッチが入ったか。) そう思った。 「クールだよなぁ。」 後ろから声がして、驚いて見ると、新谷先輩がお膳を持って隣に座った。 「珍しい時間に会ったな。」 と、言うと食事を始める。 「ごちそうさまでした。さて…」 立ち上がろうとすると恨めしい目で見られる。 「分かりましたよ…5分だけですよ?」 僕は席にまた座り、備え付けの水を入れて飲む。 「異動してからなかなか会えないのに冷たいなぁ。」 新谷先輩は僕を見て言う。 「検診では会ってますよ?」 「時々だろ? それもタイミングが合わない。」 僕は今でも心臓外科に診察を受けに行っていた。 心臓外科に勉強で出入りしている先輩に会う事も、たまにはあった。 「うちの看護師は優秀な人が多いけど、あの人は次の婦長候補だぞ?」 「中島さんですか? 次って。まだ先でしょう?」 「内科の婦長が引退されるんだ。1年後位だけどな。本来は主任になって婦長なんだろうが、脳外科の主任が退職希望出してるらしい。」 「脳外科には婦長が居ます。」 「だから、いきなり慣れない内科の婦長は無理だろう? 脳外科の婦長を内科に。脳外科のベテランを婦長にって話だ。そこにあの人の名前が挙がってる。主任飛び越えて婦長だ。まぁ、他の科からも候補はいるけど、名前が挙がるだけでも、優秀とわかる。」 「さすが、医局部長。上の人はそういう情報入るんですねぇ。」 心から関心する。 「お前が居てくれたら、主任にしたのに。」 「うちの病院の医師に主任て…ありましたか? 」 僕は少し考える。 (研修医、医師、医局班長、副部長、医局部長。 外科副部長、外科部長。) 「ないですよ! 主任なんて。」 「俺のすぐ下にそういうのを作るんだよ。サポーターとしてだ。」 「絶対、嫌です!」 「お前な・・今までの俺の苦労を水の泡にする気か?学生時代から馴らしてきたのに・・。」 「先輩・・・。絶対、嫌です!」 強く拒否をして、僕は席を後にした。
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