中島 一華。

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和室に布団…見たことのない部屋。 ものが少なくて片付けられた部屋だ。 バタン という音がして目の前の台所にスウェットズボンと半袖シャツの男の人が、シャワーの後だろう、髪を拭きながら出てきた。 コーヒーを入れて振り返る。 「安曇先生!」 驚いてしまう。 「びっくりしたぁ…。心臓に悪い。起きてるならそう言って下さい。」 「すみません、ここが何処か分からなくて。」 「憶えてません? 昨日、店で潰れて、家、聞いても駄目で。重いし…うちは近かったので、仕方なくここに。」 コーヒーを飲みながら何か作り出す。 「シャワー良かったらそこです。ああ、タオル…新品です。どうぞ。」 タオルを渡されて、少しぼーっとしたまま、会釈する。 お言葉に甘えてシャワーを浴びる。 着ていた服をそのまま着る。 「仕事、ですよね? よければどうぞ?」 キッチンのテーブルにトーストと目玉焼き、コーンスープが並んでいた。 怖々、聞く。 「私は昨夜何かご迷惑を?」 「潰れた位ですね。 ああ!誓って、何もしてません。というか、この部屋で酔ってる女性に何も出来ません。」 「酔ってなくてもでしょう? 花さんが見てますもんね。」 「話の内容は覚えているのですね。」 安曇先生はくすくすと笑った。 「お料理、上手なんですね。」 そう言うと安曇先生の目が丸くなる。 「料理のうちにはならないと。パン焼いただけ、卵焼いただけ、スープはお湯入れただけ。」 「その焼くというのが、すでに凄くて。私、まったく駄目なんです。目玉焼きは必ず潰れます。」 「中島さん忙しいでしょう? 料理、じっくりする時間ありますか?」 「ないですね。休みの日は掃除と洗濯で潰れます。」 「初心者はじっくり時間がないと料理の上達は難しいかと。」 静かに食事をする時間が流れて、 「でも・・安曇先生はじっくりお料理される時間、あったんですか?」 と、聞かれた。 「うち、姉がすごいんですよね?」 「・・?料理がですか?」 分からないという顔で聞いた。 「いや、料理は普段母が。ただ、日曜日なんかは、個人で・・。姉が、とにかくついでに作ってという人で。言いだした時点でついでではありません。命令です。腕も上がります。」 僕が嫌そうに話すと、ここまで緊張していたのか、笑顔のなかった中島さんが吹き出して笑った。
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