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花さんが亡くなって2年の月日が流れた。
喪失感はあったが、幸い、僕にはそんな暇はそうなかった。
僕は相変わらず仕事に忙しい日々だ。
花さんの心臓は、僕を力強く助けてくれていた。
去年の9月から僕は脳外科へ異動した。
花さんのような病状の人が来たら、少しでも長く生きられる方法を学びたかった。
異動の理由として、外科で難しい手術も難なく出来るようになったという事もあった。
時間があれば救急へもどんどん入った。
仕事中は花さんを忘れていられた。
忘れる、というのは間違いで、正確には花さんに助けられた僕が誰かを救う事は、花さんが救う事だと思っていた。
思えば思うほど、僕は仕事に没頭していく。
休みの日に一人でいると、花さんが顔を出す。
台所に、ベッドに……何処を見ても花さんの笑顔が思い出される。
記憶は時に、幸せな幻を見せる。
僕のアパートの寝室と和室の間は、今もドアは外してある。
片側だけだが、車椅子が通れるように。
通る人はいないのに。
僕の結婚は僅か1年…にも満たない。
駆け足過ぎて、頭では理解出来ても心はついて行かなかったのだと思う。
2年経った今も……花さんが笑顔で戻る気がして、泣きそうになる。
「ちゃんと別れは言った… さよならは伝えた。僕の心臓は花さんが持って行った。」
そう、何度も言い聞かせる。
余りにも早過ぎて、それさえも自分の妄想ではないかと思ってしまう。
花さんの実家に行ったら、別の人と結婚した花さんがいて、幸せそうに暮らしてはいないだろうかと、思ってしまう。
今でもそんなだから、2年前はもっと酷かった。
花さんの3回忌がそろそろ来る。
僕は百合さんに欠席の連絡を入れていた。
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