2年後。

3/8

501人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
花さんが亡くなって2年の月日が流れた。 喪失感はあったが、幸い、僕にはそんな暇はそうなかった。 僕は相変わらず仕事に忙しい日々だ。 花さんの心臓は、僕を力強く助けてくれていた。 去年の9月から僕は脳外科へ異動した。 花さんのような病状の人が来たら、少しでも長く生きられる方法を学びたかった。 異動の理由として、外科で難しい手術も難なく出来るようになったという事もあった。 時間があれば救急へもどんどん入った。 仕事中は花さんを忘れていられた。 忘れる、というのは間違いで、正確には花さんに助けられた僕が誰かを救う事は、花さんが救う事だと思っていた。 思えば思うほど、僕は仕事に没頭していく。 休みの日に一人でいると、花さんが顔を出す。 台所に、ベッドに……何処を見ても花さんの笑顔が思い出される。 記憶は時に、幸せな幻を見せる。 僕のアパートの寝室と和室の間は、今もドアは外してある。 片側だけだが、車椅子が通れるように。 通る人はいないのに。 僕の結婚は僅か1年…にも満たない。 駆け足過ぎて、頭では理解出来ても心はついて行かなかったのだと思う。 2年経った今も……花さんが笑顔で戻る気がして、泣きそうになる。 「ちゃんと別れは言った… さよならは伝えた。僕の心臓は花さんが持って行った。」 そう、何度も言い聞かせる。 余りにも早過ぎて、それさえも自分の妄想ではないかと思ってしまう。 花さんの実家に行ったら、別の人と結婚した花さんがいて、幸せそうに暮らしてはいないだろうかと、思ってしまう。 今でもそんなだから、2年前はもっと酷かった。 花さんの3回忌がそろそろ来る。 僕は百合さんに欠席の連絡を入れていた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

501人が本棚に入れています
本棚に追加