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帰りのバスの中、彼女は一度だけ、みんなに1通、先生から手紙をもらったと話してくれた。
「先生のお姉さんがビデオを取りに来たって、校長先生が言って、その後、先生が、みんなにお手紙をくれましたって、配ってくれたの。2年生になってた。
私のお手紙は、優しい思いやりのある良い子ですって。でも、強くなろうと努力して、優しい事と誤魔化す事は違います。自分の意見を言いたい時はしっかりと強く言えるようになりましょうって。このまままっすぐ生きて行って下さいって。」
「覚えてるの?」
「うん・・先生、大好きだった。死んじゃったって聞いて、信じられなくて。そしたらお母さんが1周忌に連れて行ってくれた。本当に死んじゃったんだって、思いました。」
「花さん、森崎先生はね、ずっと先生を続けたいと思っていたんだよ? これから先、結婚してもずっとね。君たちは最後の生徒で、だからきっと喜んでる。元気で楽しく勉強してくれていたら。」
「3回忌の次は、七なんだって。しばらく会えないと思って今日、来ちゃった。」
「そっか・・。確かに・・。」
「3回忌ね? なんか、知らない人同士でもめてたみたいだった。」
「えっ?」
「おばさんが何か話してて、お姉さんに注意されてたの。何を話してるかはよく分からなかったし、お母さんと帰っちゃったから。」
「おばさん?あ・・いや・・気にしなくて大丈夫だよ? さやちゃん、風邪はどう?」
「平気。苦しいのもなくなったよ。」
「良かった。我慢してたんじゃない?本当は、前の日からお熱あったでしょ?」
ばれた・・と言う顔で見る。
「お母さん、心配かけたくないんだ?」
「うん。でも、ちゃんと今度は言う。」
「そうだね。それも森崎先生の手紙の強く言うべき所だと思うよ?」
さやさんは頷いた。
バス停を降りると、家が見える所まで送った。
指をさしあそこだと言う。
手を振り、少し後をついて行く。
彼女が玄関を入るのを見届ける。
いつか花さんが、
「あの後、彼女を送って行った。」
と話していたのを思い出す。
ここにも、ほんの数年前に・・花さんはいたのだ。
花さんがここにいた、それだけで幸せにも辛くもなる。
目を閉じる、時間は戻らない。
小さな彼女をおろおろしながら見ていた花さんはもういないのだ。
現実が辛くなった。
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