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3回忌を欠席しようとしたのにも理由があった。
2年前はひどかった。
自分でもそう思う。
今でも花さんの幻を見るのだ。
2年前など、重症だ。
1周忌は葬儀の後、花さんの死を知った友人や元同僚、生徒など、参列出来なかった人が沢山来てくれていた。
彼女の人柄が偲ばれた。
僕は妻に先立たれた夫としてそこに居たが、僕に向けられる目は様々だった。
百合さんから話しを聞き、理解し、美談として受け止めてくれる人。
ロマンチックだと、思う人。
奇跡だと感動してくれる人。
取り方は人それぞれで、僕にはどうでもいい事だった。
でも、いい取り方ばかりではなかった。
噂で口伝えに聞いた人は、ちゃんとした情報を受け取れずに、僕に対する適当な噂だけが一人歩きしていた。
花さんを想う人達からの目は…少し堪え難い物だった。
僕はどう言われてもいい。
知らない人がどう思おうがどうでもいい。
彼女が選んだ相手がいい加減な男だと、そう思われているのかもしれないという、被害者意識があったのかもしれない。
そんな男に、大事な心臓を渡したのか?
自分で自分に問う。
周りの目も仕方がないのかもしれない。
有難い言葉もあるし、優しい言葉も頂いた。
それでも、辛さは変わらない。
花さんはいない。
三回忌に出る気持ちが、勇気がない。
早めに休みの申請をする事も出来た。
休みをもらわなかったのは、花さんの三回忌を穏やかに過ごしたいからで、彼女を知る沢山の人の中で、彼女がいない事を再認識したくなかったのかもしれない。
花さんの心臓を移植した事に後悔はない。
愛する人の最後の願いで、愛した人の心臓だ。
これほどに幸せな男などいないと思っている。
だからなのか?
仕事以外の僕はまるで腑抜けで、花さんの事ばかり考える。
もっと早く出会い、結婚していたら、子供でもいたら。
そうしたら僕はその子の為に、花さんを思い出にして働けていたのだろうか?
馬鹿な妄想は止まる事がなかった。
妄想しなければ、正気で居られなかったのかもしれない。
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