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3回忌の3日前。
花さんのお墓を訪れた。
「花の巻き寿司とパンダ寿しです。上手く出来てるでしょ?」
お茶も湯呑みに注ぎ、花を手向け、線香を立てる。
「今年の3回忌には出れないので今日来ました。言わなくても、花さんにはバレてますよね?
情けない夫で申し訳ないと思います。 」
そこまで言うと涙が溢れた。
「すいません。 花さんには幸せに、と言われましたね。誰かと恋をして……花さんとの恋が終わってないのに、それは僕には無理みたいです。せめてもう1年…半年、病室でもいい、あなたと過ごしたかった。僕は、花さんが思うほど、強くない。
僕の中には、花さんが……僕の中から、花さんが消えない。」
墓の前で座ったまま泣いた。
側にいられた時間は短く、彼女は余りにも強い印象を残して消えてしまった。
もっと時間があればと、思ってしまう。
「ごめん、花さん。泣き言は嫌ですよね…。花さんはいつも前向きなのに、僕はいつも臆病で本当に嫌になります。」
「本当ですよ、公太さん。しっかりして下さい。」
花さんの声が聞こえて振り返る。
「止めて下さいよ、百合さん、たちが悪い。」
「似てました?」
振り返った所には百合さんが立っていた。
「わざと少し高い声、出したでしょう?」
「ばれました? だって、公太さん湿っぽいから。」
立ち上がり聞く。
「どうしてここに?」
「欠席の連絡もらって、和尚さんに、この人来たら電話してって頼みました。絶対来ると思っていたので。」
「かなわないなぁ、百合さんには…。」
「うち、行きましょう。積もる話もあるし。」
無理やり、手を引っ張られる。
「ちょ、僕はすぐに帰るつもりで……。」
「帰れる、帰れる。夜には。大丈夫、電車はある。」
百合さんの手に掛かれば、涙などは引っ込む。
彼女もまた、最愛のただ一人の妹を亡くした人だからだ。
逆らう事も許されずに、花さんの実家に連れて行かれた。
「やったー。お持ち帰りだ!」
「百合さん…意味おかしい。」
御構い無しで車を出した。
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