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「商売は順調ですか?」
家に上がり聞く。
「もちのろん! 食べる? 美味しさ増してるよ?」
かぼちゃプリンが出てくる。
懐かしい味がする。
1年前…近所のおばあちゃんが寝込んで食欲がないと百合さんは聞いた。
花さんを思い出し、辛くなる。
食欲のない花さんの為に作ったプリンを思い出し、差し入れた。
おばあちゃんは大変に喜び、食べてくれたそうだ。
おばあちゃんは老人ホームにいる友人にそれを差し入れたいと言って来た。
「とんでもない!」
と、百合さんは断った。
どうしても、と言われて素人で申し訳ないと言い6つだけお土産として渡した。
ところがそれを食べた老人ホームの職員がおやつとして入れてくれと言ってきた。
百合さんは真っ青になった…らしい。
そこでホームの調理場を借り、材料を用意してもらい、教えつつなら、とボランティアで作りに行った。
そこからどう伝わっていくのか、電話が鳴るようになり、その度に断り、しかし、拡がっていき。
いつしか、余命いくばくのない母が……なんて聞くと、どうしても花さんとかぶり、断れなくなる。
「予約だけで、もう、仕事にしたらどうだ?こんなに求められるって幸せだぞ?」
お義兄さんに言われて、そう思った百合さんは正式に販売許可やら、衛生管理やらをクリアして、ネット限定で店を始めた。
「花ちゃんのプリン。」
それが名前だ。
たまご、かぼちゃ、牛乳の3種類。大好評で5ヶ月待ちだそうだ。
「ムースは作らないんですか? あれ、美味しかったですよ?」
「手間掛かるんだ。3種類でいっぱい。」
「手作りで150円て、安すぎませんか?」
「うちのはね、普通のより容器が小さいの。だから安くても大丈夫。」
食べ終えた容器を見る。
「なるほど。ペロリですね。」
「花もそうだったけど、余り食べれないでしょ? 残すと悪い気がするでしょう? 底まで見えて食べたぁって思えると嬉しいじゃない? だからわざと少なめにしてあるの。」
「みんなが欲しがるのが分かりますね。百合さんの優しさが詰まってる。」
「花の為に、考えた事だけどね。」
少し寂しそうに呟いた。
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