2年後。

7/8
502人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
「いいな、百合さんは・・。花さんにしてあげた事が形に残ってる。」 プリンを見て僕は言う。 「んー?湿っぽかったなぁ。 花は前向き・・とかしか聞こえなかったけど、何か悩み?」 暖かいお茶を入れて聞いてくれる。 「沢山の人を助けたい。それは、僕を助けてくれた花さんが助けている事になる。でも、花さんにしてあげられている事じゃない。僕は結局、花さんに何も出来ないままです。」 「私もね、そう思ってた。」 「ん?百合さんが?」 不意の言葉に、不思議に思った。 あんなにも花さんに尽くし、労り、愛していた百合さんがと・・。 「花は大事な妹、たった一人、両親が遺してくれた。出来るなら、最期までずっと側にいてあげたいと思う。 でも私には家族がいて、旦那はね?言えば理解はしてくれる。でも、子供はね、子供を見ないでいいのか?と、自分の心が痛む。 身体がふたつあればと何度も思った。」 「はい・・。」 百合さんの苦悩はすんなりと聞き取れる。 「そんな時、公太さんがいてくれた。 側にいられない時、花に罪悪感が生まれる。でも今頃、公太さんといちゃいちゃしているんだなと思うと、気持ちが楽になった。」 「いちゃいちゃ・・って・・。」 ちょっと、僕は聞いていて笑う。 百合さんも少し笑い、続ける。 「二人の邪魔をしていない事で、私は役に立ってると思える。 有り難かった・・・。公太さんには申し訳ないと思ってた。 仕事もして、花の事も・・自分の身体もきついはずなのに。 でも、ごめんね? あなたが花の夫として居てくれた事が、私の気持ちを楽にしてくれていた。 だから、プリンも、何度も何度も試作して作れた。」 庭を眺めて百合さんは言う。 「今の仕事があるのも、花と公太さんのおかげ。」 「僕は・・そんなにいい人じゃないです・・。花さんから離れられない。今も、ここにいても、僕は半分、どこか居る気分になる。」 そう答えて、庭を眺めた。 「私もあるよ? 時々、花がそこに座って笑ってる気がする・・。 お姉ちゃん、ねぇ、お姉ちゃんて・・。」 百合さんは言いながら、涙を流した。 僕の妄想が、妄想ではなく願望だと、気が付いた。 (願望が見せる幻か・・。) 大事な人がいなくなる喪失感は同じだ。 百合さんの存在は、僕にとって精神的な味方だった。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!