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「いいな、百合さんは・・。花さんにしてあげた事が形に残ってる。」
プリンを見て僕は言う。
「んー?湿っぽかったなぁ。 花は前向き・・とかしか聞こえなかったけど、何か悩み?」
暖かいお茶を入れて聞いてくれる。
「沢山の人を助けたい。それは、僕を助けてくれた花さんが助けている事になる。でも、花さんにしてあげられている事じゃない。僕は結局、花さんに何も出来ないままです。」
「私もね、そう思ってた。」
「ん?百合さんが?」
不意の言葉に、不思議に思った。
あんなにも花さんに尽くし、労り、愛していた百合さんがと・・。
「花は大事な妹、たった一人、両親が遺してくれた。出来るなら、最期までずっと側にいてあげたいと思う。 でも私には家族がいて、旦那はね?言えば理解はしてくれる。でも、子供はね、子供を見ないでいいのか?と、自分の心が痛む。 身体がふたつあればと何度も思った。」
「はい・・。」
百合さんの苦悩はすんなりと聞き取れる。
「そんな時、公太さんがいてくれた。 側にいられない時、花に罪悪感が生まれる。でも今頃、公太さんといちゃいちゃしているんだなと思うと、気持ちが楽になった。」
「いちゃいちゃ・・って・・。」
ちょっと、僕は聞いていて笑う。
百合さんも少し笑い、続ける。
「二人の邪魔をしていない事で、私は役に立ってると思える。
有り難かった・・・。公太さんには申し訳ないと思ってた。
仕事もして、花の事も・・自分の身体もきついはずなのに。
でも、ごめんね? あなたが花の夫として居てくれた事が、私の気持ちを楽にしてくれていた。
だから、プリンも、何度も何度も試作して作れた。」
庭を眺めて百合さんは言う。
「今の仕事があるのも、花と公太さんのおかげ。」
「僕は・・そんなにいい人じゃないです・・。花さんから離れられない。今も、ここにいても、僕は半分、どこか居る気分になる。」
そう答えて、庭を眺めた。
「私もあるよ? 時々、花がそこに座って笑ってる気がする・・。
お姉ちゃん、ねぇ、お姉ちゃんて・・。」
百合さんは言いながら、涙を流した。
僕の妄想が、妄想ではなく願望だと、気が付いた。
(願望が見せる幻か・・。)
大事な人がいなくなる喪失感は同じだ。
百合さんの存在は、僕にとって精神的な味方だった。
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