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臆病で意気地なしの私の幼馴染み
実物はテレビの画面で見るよりもずっと凛々しく咲き誇っていた。
一際ピンクの濃い梅の木の前に立つ。
天気予報が当たって今朝まで降っていた雪はピタリと止んで空が次第に青みを増していく。
梅のピンクと雪の白、それを引き立たせる空の色がど素人の私の心すらざわめきを起こす。
「わあっ綺麗。やっぱり来て良かった」
片道三時間の道のり。助手席に乗る私に文句を言いながらも、幼馴染みの栄太は今日も私の願いを叶えてくれた。
「ほら、雪溶ける前に早く写真撮っちゃえよ」
「待って。納得のいく瞬間をちゃんと狙わないと」
カシャッと乾いた音に続いてジジジジっというモーター音。
レンズがゆっくりと引っ込んでいく。
「……あ」
「ん?どした?」
「あーあ……」
「だから、どしたって」
「言っても怒らない?」
「……だから、何が?」
「ごめん。せっかくここまで連れてきてくれたのに。でも、ま、綺麗なの生で見れたし、良いよね」
「だから何がって……あ、まさか」
「そう。そのまさか。バッテリー切れ。辛うじて一枚撮って残量不足で安らかな眠りに……」
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