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しかしいくら習慣になった日常の一部であったとしても、それでも、僕らは現代を生きる学生であるからして、卒業や進路について立ち向かわなければならない、しがない生き物だったりするのだった。南無三。
「進路どうしよー。」
小声で隣に座り、手には京極堂シリーズを持った彰吾が、べったりと机に顔を付ける。そう、奴はいま自分の将来に不安を抱えているのだ。
因みに僕は東京の進学校へ推薦で入ることが決まっている、今している勉強は彰吾のテスト勉強の手伝いでもあった。
進路を意識し始めると流石に能天気な奴も、学力という人生の指針を測る数字に、目を背けることなど出来なかったという訳で。
その為最近では、本を読んだ後、僕に分からなところを教えて欲しいとテストのプリントを見せて来るようになったのだ。
「就職してもいいけど、高卒って給料安いんだろ?進学したいけど俺頭悪いしなぁ。」
僕は赤ペン先生になりきって、彰吾のプリントに正解の方程式とアドバイスを書いてやっている。というかこいつ普通に平均点はとれてるから、もう少し頑張れば大学くらいは大丈夫な気がするけどね。凄く頭のいい所を狙わなければ、普通に受かるでしょうよ。
まぁそのまま言って調子に乗せる気は無いから、言わないけども。
「透は、俺を置いていくんだ。」
メソメソと紙の鈍器と呼ばれるミステリィを枕にして奴は嘆く。
「人間誰しも別れは来るでしょ。」
「ふわー、辛辣。」
「自然の摂理。」
「逆らいたい、その摂理に。」
なんで、逆らおうとするかね、流れに身を任せようとか思ったりしない訳?
「透はさ、東京に行くんだろ、そしたらさ、こうして会うことも出来ないし。本もお勧めして貰えないし。フラペチーノだって飲めなくなる。」
寂しいな。
茶髪の間から覗く悲しそうな瞳。
またそうやって、子犬みたいな顔をして、もう三年もその顔を見ているはずなのに、どうしても僕は奴のその顔に弱かった。
「追って来ればいいでしょ。」
「えっ。」
「東京来なよ。」
僕が分厚い眼鏡越しにそういうと、奴は頬を染めて「いいの!?」と飛び跳ねた。
ここは一応私語厳禁です。椅子ごと倒れそうになる彰吾の腕を掴み、静かに!のポーズをしてやった。
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