正反対の二人

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奴の第一印象は、茶髪ピアスの不良。という簡潔な物だった。ひと昔前ならヤンキーという形容詞が持てはやされたかもしれないが、それはもう絶滅危惧種であるので、奴の印象にはなんとなくピンと来ない。  黒いフード付きのガイコツが描かれたパーカーに、色の薄くなったジーンズを履き、腕にはシルバーアクセサリーをジャラジャラつけたそいつは、がらりと音を立てて自習室に入ると、ぐるりと辺りを見回し、沢山席が空いているというのに、何故か僕の椅子を一つ分開けた隣へと腰かけた。  そして、横で勉強している僕をジロジロと見た後に、「おい」と大きな声を出そうとしたので僕は奴を睨み付け、口元に人差し指を当てた。 [私語厳禁] 口パクで言うと、奴はへにょと怒られた子犬の様な顔をした後、財布からレシートを取り出して、近くに転がっていた忘れ物の鉛筆で文字を書いて僕に見せて来た。 「おもしろいほんしりませんか。」  漢字が一つもないその汚い走り書きを、見せられてどうしろと?  奴の脳みそには、プリンでも詰まっているのだろうかという感想が一瞬過ったが。いやいや、と思い直す。  こいつは見た目アホな不良だが、今は純粋に本を求めているらしい。     
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