神の家に巣くうモノ

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 心配そうにしていた神父はランバートの言葉を聞いて悲しみに瞳を曇らせる。ランバートも同じように悲しみの目をして俯く。だが、そこからは気丈な笑みを作った。 「大丈夫です、神父様。私、あの子を連れて国へ帰る手立てを考えてみます」 「国へ? ですが、今は国情も悪く思うようには……」 「それでも、諦めてはいけない気がします。私に婚約者がいるように、あの子にも家族があるかもしれない。国へ戻り、傷を癒やせばいつか声を取りもどすかもしれません。ですから、方法を探してみようと思います」  そう伝えたランバートに、神父は祖父のような心配と慈愛のこもった視線を向けて深く頷いてくれた。これに、嘘はない。  だが背後の二人はニヤリと笑った。実に陰湿な笑みだ。 「ところで神父様。そちらのお二人は?」  問いかければ神父が背後の二人を見る。そして、少し戸惑うように声を発した。 「本神殿より遣わされた、神父ルジェールと、神父マルコフです」  一歩前に出て、丁寧に形だけは頭を下げる。ダークブラウンのほうがルジェール、グレーのほうがマルコフだ。  ランバートは二人にも穏やかに微笑み、淑女の礼を尽くす。そして始めて偽名『アイリーン』と名乗った。     
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