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その後、「ここに居る間はお手伝いを」と言ってランバートは教会の仕事を行い、時々ラウルの所に食事を持って上がった。ラウルは部屋のあちこちに必要そうな物を仕込んでいて、上手く引っかかりそうだと伝えれば「楽しみだね」と笑っている。
まぁ、ランバートとしても早くこの状況からは脱したい。いくら敵地での潜入に適しているからといって、女性のフリばかりしていては気力が萎えそうだ。
それに、鏡を見る度に何となく凹む。女装した顔があまりに母親に似ていた。否定はしないが……男なのにな、という気がしてしまうのだ。
その夜、食堂を綺麗にしている時に背後で人の気配がし、ランバートは振り返った。そこにはルジェールが立っていて、ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべていた。
「アイリーンさん、お疲れ様です」
「お疲れさまです、ルジェール様。先にお休みになられたと思いました」
近づいてくるルジェールに、ランバートは笑みを浮かべながらも警戒をする。いきなり乱暴を働く事はないだろうし、ここに神父が来てしまえばお終いだ。場所は選ぶだろう。そうあってもらいたい。
「あの、私になにか?」
「神父様から聞きました。なんでも、ラン・カレイユへと帰りたいとか」
「え? えぇ、勿論です」
「実は教会には、秘密のルートがありましてね。それを使って、国元に帰れないかと」
「え?」
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