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そう言われて、ラダは躊躇わなかった。その条件に当てはまるのは今、ラダしかいなかった。
その肌に血が触れるだけでもいい。そこに命は宿る。けれど選んだのは、触れるだけのキス。これはラダの我が儘だ。幼いまでも憧れ、恋した人に少しだけでいい、触れてみたかった。
淡かった。そこに肉欲はないのだ。ただただ、祈りだけがあるのだ。アルブレヒトに生きてもらいたい、元気になってもらいたい。その純粋な思いだけだった。
「ラダ?」
不意に声が聞こえる。前よりもずっとはっきりとした強い声だ。
「アルブレヒト様、お加減は?」
誤魔化すように笑って立ち上がる。そうして見たアルブレヒトの表情は、とても痛そうだった。
「ラダ、もうやめなさい。私は貴方を犠牲にできない」
ゆっくりと上半身を起こしたアルブレヒトが、そっと頭を抱き寄せてくる。その温かな胸の中で瞳を閉じれば、確かな鼓動が聞こえてくる。生きている、元気になってきている、それを思わせるものだ。
「私はなにも」
「私に命を注いでいますね? 嘘はいけません」
「私にそんな力……」
「おおかた、神が何かをしたのです。我が子可愛さに、他を犠牲にする道を選ぶなんて」
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