金色の狼(ラダ)

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 強くなる腕の力、それだけでも嬉しい。こんなふうに強く抱きしめられたのは、どのくらいぶりだろう。もうずっと、アルブレヒトの体に力などなかった。弱くて、儚く消えてしまいそうだった。 「アルブレヒト様、私は止めません」 「ラダ、いけない。貴方はこれから沢山生きるのです。幸せな未来が」 「貴方なしに得た未来が幸せだなんて、そんな事ありません」  ラダは見上げて、首に腕を回して伸び上がり触れた。また、力が抜ける。アルブレヒトは驚いてラダの体を離した。 「ラダ!」 「お慕い、しています。貴方が私を人にしてくれました。幸の薄い私を、人の優しさなど知らない私を、初めて人として扱ってくれました。貴方が私を、人にしてくれたのです」  気付いた時には親などなかった。拾った人間はみな、道具のように扱った。食べ物を必要とする分、道具ほどの価値もないと言われた。  教会が拾っても、あまり変わらなかった。その教会が最悪だったのだろう。結局食べ物なんてカスしかなくて、痩せ細っていった。  病気でもすれば助からない。飢えと、恐怖しかなかった。この胸に恨みほどの強い感情もなかったけれど、温かなものもなかった。 「数年でも、お仕えできて嬉しかったです、アルブレヒト様。もっと、穏やかな時代にお会いできていたら……それだけが悔しいです」     
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