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檻を開け、ラダは鍵をかけた。アルブレヒトは駆け出してその檻を握り片手を伸ばした。その手はほんの僅かの差でラダをつかまえられないまま空を切った。
「ラダ!」
足裏の感覚が少し掴めない。階段を上がるだけで息が上がる。心臓が、ドクドク音を立てている。
階段を上りきり、息を整えて、いつもと変わらないように装って背を伸ばした。手には水差しを持っている。鍵はこっそりとポケットに忍ばせた。ここに居る人はみな、ラダの行動を制限しない。こんな小娘に何ができるのか、そう高をくくっている。
「どうした、ラダ」
「水を汲みに行ってきます」
「そうか」
教会の扉が開く。水差しを持ったまま、ラダは離れた小川へと向かい歩き出した。決して悟られぬように、いつもと同じを装って。
森の中はとても静かだった。獣の気配もない。ただ空に綺麗な満月があるばかり。
「神様、金の狼はどこにいるの? 私の足でも辿り着ける? 私の体、前ほどの力が出ないの」
歩いているだけで足が重い。息が切れそうだ。苦しくてたまらない。
それでも頑張れるのは、この苦しみはアルブレヒトが感じたものだから。こんなに、苦しかったんだ。それなのに、優しかった。自分ではなく、常に他人の為に、名も顔も知らぬ人々の悲しみを憂いていた。
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