神子姫の願い

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神子姫の願い

 ラダの案内で森の中を進むと、やがて教会が見えた。とても古い外観だが、中からは明かりが漏れている。 「私でも、ドアくらいは開けられます。その隙に、お願いします」  コンラッドに下ろしてもらい、ハリーが持っていた水差しを受け取ったラダは震えそうな体を気力で立てているように見える。歩き出すその姿は凛と強く、弱っているとは思えないものだ。  クリフに、様子を聞いた。彼女の体は治療が必要だという。事例のない事だから何とも言えないけれど、急激に体が弱っているとしか思えない。呼吸が乱れて不整脈の症状が出ているから、循環器系の検査も早くしたい。  けれど、そう言ったクリフの表情は晴れない。そして一言「悠長に船旅ができる体力は、ないかもしれない」と言った。  ラダがドアを叩く。それに応じて中から声がした。名を伝えればドアが開き、特に警戒もしていない男が腕を伸ばした。  その瞬間、闇に紛れたチェルルが腕を掴みだし、男を引きずり出すと共にその首を掻き切った。  真っ赤になった壁や天井。それを被ったラダの目は意外にも冷ややかだった。 「行くぞ!」     
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