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「はい、どうぞ」
冷えた単調な声を添え、久木はいきなり何かを差し出してきた。一口残ったロイヤルミルクティーを渋々置き、真っ白な洋形封筒を受け取る。
「何よこれ」
「優也くんからの預り物。『近い内に俺の幼なじみを名乗る女が現れるはずだから肌身離さず持ち歩いて、そいつに会ったら渡して』って言われてたの。思い出せてよかった、危うく忘れるとこだったわ」
お高そうなブランドバッグを肩に掛け、久木はやけにすっきりした面持ちで立ち上がった。もう吹っ切れたとでもいうのか。ユーヤに対する愛はそんなものだったと?
それ以上に腹立たしかったのは、封筒の口が既に切られていたことだ。許せない。ユーヤからあたしへの贈り物を汚すなんて。
「中、見たんだ? サイッテー」
「軽く検閲しただけよ。一応、『婚約者』のつもりでしたから」
すれ違いざま、久木はぐっと鼻先を寄せてきた。血色が悪いままの唇が左右に裂け、限界まで見張られた目からはとうとう涙が零れ落ちる。
「ざまあみろ」
唐突に呪いの言葉を喰らって呆気に取られてしまったあたしを残し、久木は颯爽とレジ前を通り過ぎて店外へ出ていった。一体なんだというのか。
まあ、あの女のことはいい。もう終わったことだ。ユーヤからの封筒の中身を早く見よう。もしかしたら、前もってサプライズプレゼントを仕込んでおいてくれたのかもしれない!
と、胸を高鳴らせたところでスマホから受信音が響いた。“黒電話”じゃないからユーヤではないはずだが、誰だろう。
何も予想がつかないまま、メールを開く。件名は「Returned Mail」、送信者は「MAILER DAEMON」だ。そして本文には、ユーヤのメールアドレスがある。
「え?」
どうして? なんでユーヤのメールアドレスが?このメールは、あたしがさっき送った完了報告に対して宛てられたものだということ?
意味がわからない。わかりたくもないけれど、まさか。
スマホを放り出し、封筒に掴みかかる。逆さにして思い切り振ったら中身が一気に飛び出してテーブルに散らばった。
「ごめんね、チキちゃん。飽きちゃった」
そう書かれたメモの切れ端と、あたしの顔写真が。
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